立命館大学 大島堅一教授の講演

原子力の本当のコスト



2011.10.27


10月22日(土)に京都で立命館大学の大島堅一教授の講演会があったので聴きに行ってきました。テーマは「原子力の本当のコスト」でした。





大島教授は、もうずっと原子力の本当のコストを計算していて、昨年「再生可能エネルギーの政策経済学」という本を書かれたそうです。内容の半分以上は原子力のコストのことなのですが、原子力なんて名前を付けたんじゃ売れませんよ、と出版社に言われて、こういう題になったそうです。原子力と入れておけば今頃飛ぶように売れたのに・・・と苦笑しておられましたが、とにかく福島の事故までは原子力には誰も関心がなかったということです。

しかしそこには原子力のコストのことが書いてあるので、それが原子力委員会の目にとまって、福島の事故が起こる前のある日、「専門家のご意見をお伺いしたい」と呼ばれて東京まで出かけて行って、じゃぁ、と言うことで持論を説明し始めたそうです。

すると原子力委員長の近藤氏が、「君、そんなもんは学問じゃないよ」と言い出して、ご意見をお伺いしたいと頼まれたからわざわざやってきて、意見を述べているのに、そんなもんは学問じゃないとはどういうつもりだ、と大島先生も相当に憤慨したそうです。

最後に近藤氏が「きょうはもう時間がないから、これで勘弁してやる」と言って会合はお開きになったそうで、「時間がないから勘弁してやるって、どういうつもりでしょうかね」と言っておられました。

原子力委員会の体質というか、近藤という人の、権威をカサに着た権柄ずくの人格がよく現れているエピソードです。まぁ、こういう調子で長年にわたって原子力村を仕切ってきたのでしょう。

思うに、おそらく近藤氏の指示で、「この大島ってやつを呼びつけてとっちめてやろう、2度と反抗しないようにな」ということだったのでしょうね。


「近藤っていう人は東大原子力の2期生でね、うちの(立命館の)安斉先生は1期生ですからね、近藤くん、てなもんなんですけどね」とは、大島教授の弁。とにかく、原子力委員会の連中は「まったく話にならない」のだそうです。

原子力発電のコストは、原子力発電に関わる国民負担のすべてをカウントして算出すべきである、というのが大島教授の持論で、持論と言うより、誰が考えてもそうなるわけで、そうでないという意見があったら教えてほしいくらいのものですが、ところがこれが原子力委員会にはまったく通じないのです。
原発のコストは電力会社の帳簿にある数字だけから算出する、というのが原子力委員会のルールだそうです。地元への税金からの補助金は勘定しないわけで、はっきりと、インチキです。

特に福島の事故の後は、事故の賠償費用もコストに加算しなければならない、などと言おうものなら、原子力委員会は目の色を変えて、「そ、そんな、じ、事故があったからと言って、い、一時の感情にかられて、そ、そんな計算を、す、すべきじゃ、ななななな、ない!」と言って怒るのだそうです。

いやいや、べつに感情的になんかなってませんよ、冷静に当たり前のことを言っているだけでね、とこれもまた大島教授の弁でした。



下のグラフは資源エネルギー庁が昨年発表した発電コストです。


以下は私がスライドショウで述べていることです。



原子力のコストは1kwh当たり5〜6円で、他の方法よりかなり安くなっています。
しかしこれがまったくのウソなのです。

大島堅一教授の最新の検証では、コストは倍の12円以上になっています。

政府のコスト計算には、莫大な研究開発費や立地対策の費用などの国費が含まれていません。

また、稼働率を80%として計算していますが、実際の稼働率はせいぜい60%で、その差だけでもコストは実際の4分の3になってしまっています。

さらに、原子力は簡単に停止できないため夜通し運転されますが、その夜間の余剰電力をなんとかさばく(電気は余ったままにしておけません)ためにポンプで水を山の上に上げて(揚水)いますが、その費用が含まれていません。これらを含めると「原子力+揚水」は12、23円になるというのが大島教授の計算です。

逆に政府は、原子力のコストに含めるべき揚水発電を一般の水力発電に含めて計算して、水力は8円から13円としています。しかし日本初の水力発電は京都の蹴上発電所で、もう百年以上も現役です。水力発電は設備さえ作れば、あとは燃料費ゼロでコストはきわめて安いのです。実際、揚水発電以外の一般の水力発電だけで見ると、コストは4円以下です。

水力より原子力の方が安いなどという話はウソに決まっています。

ほかにも、NHKの討論番組でNPO法人「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也氏が指摘していましたが、このグラフの太陽光発電の49円という値は、なんと10年前のデータなのだそうです。10年もたてば発電効率も上がりコストは下がっているはずです。

このように経産省のエネルギー白書は恣意的でデタラメです。もし福島の事故がなかったら、国民はこれから10年でも20年でもだまされ続けていたでしょう。

なぜそんなウソをつくのか。

原子力はウソをつかないと推進できないからです。


しかしこれだけではありません。原子力にはもっとコストがかかっているのです。

事故保険に加入していない

通常の経済活動では誰でも万一のために保険に入ります。自動車を運転する人は誰でも自賠責に加入します。石炭や石油の火力発電所も事故に備えて保険に入っています。

しかし原子力は事故が起きたときの保険に加入していません。いったん事故が起きると賠償金が莫大で、保険会社が引き受けられないのです。ですから、今から50年前に政府が国策で原子力を推し進めたとき、電力会社は、保険に入れないので一発の事故で会社がつぶれてしまう、といやがりました。そこで政府はあくまで国策を推進するために、事故が起きたら政府が補償する、保険に入らなくて良いと電力会社に保証したのです。

しかし事故で被害にあうのは国民で、政府の金は国民の金です。国民が国民に補償するなど、何の理屈にもなっていません。

保険に加入していれば保険の掛け金は自動的に電力料金に反映されます。前掲の環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は東洋経済誌上で、賠償費用は当然発電コストに含まれるべきだと言っています。それが正しいあり方です。






ある証券会社の試算では、福島の賠償額は48兆円くらいになるということです。これを東電だけで負担する(それが筋ですが)と、1kwh当たり20円以上になります。すべての電力会社で分担すると、これまでの日本の原発発電総量6兆kwhで割って8円/kwhの負担になります。

実際は損害額はもっと巨額です。福島の除染だけでも百兆円はかかると言われています(除染は物理的にできそうもありませんが)。そんなお金はどこにもありません。つまり、事故のリスクを考えれば原子力など初めからできるはずもないことなのです。だからそもそも保険がきかないのです。

廃棄物処理費が未計上

つぎに、核燃料廃棄物の処理のコストがまだ計上できていません。どのくらいの費用がかかるか「分からない」というのが本当のところで、技術的に可能かどうかさえまだはっきりしていません。実際のところ、原発の関係者で廃棄物のことをまともに考えている人間はいません。仮に廃棄できたとして、7円/kwhくらいかかるのではないかという説もあります。

合計すると、原発のコストは15円+8円+7円=30円/kwhくらいになります。これでは火力や水力とまったく競争できません。話にならないのです。






原子力委員会は民意を無視しようとしている

原子力政策の元締めの内閣府原子力委員会が福島事故のあと実施した、約1万件の調査結果(日刊工業新聞報道)で、「核発電は直ちに廃止して再生可能エネルギーに転換」が67%、段階的廃止と併せて合計98%が核発電の廃止を求めています。
http://www.minusionwater.com/eiheiji.htm

近藤原子力委員長は福島の事故のあと、「これからも核発電を推進する」と言っていましたが、自分自身の調査によって、国民の意思はすでに脱・核発電に定まっていることがはっきりしたのですから、粛々と民意に従うべきです。

しかるに原子力委員会は先日、事故の損害額をたったの4兆円と勝手に決めつけ、事故のコストを1円/1kwhと算定し、原子力のコストはこれまでの5〜6円(これはウソです)から1円アップで7円になったと発表しました。

つまりウソの上塗りです。

しかも、議場全体の反対意見を議長(鈴木原子力委員長代理)が押さえつけて、ムリヤリの決定です。まるでファシズムです。そしてこの7円というコストが、来夏に向けて策定する原子力政策大綱の基礎になるというのです。

大島教授は、「この事故で、私が長年研究してきた原子力のいちいちのコストなんかどうでもよくなってしまった」と言っていました。発電コストは10円、20円という単位で跳ね上がった(もともとそうだった)ということです。


私は、原子力委員会は国民の声を聞いて方針を変えるのではないか、と思っていました。
しかしとんでもない見当違いで、委員会はそれどころかますます原子力を推進しようとしています。今回のコスト発表を聞いて、原子力委員会は、民意を無視し、国民をだまし、どれだけ事故があっても、核発電を推進しようとしていることが分かりました。

まるで昔の狂信的な軍部のようです。
国民や政治家がブレーキをかけなければなりません。


大島教授は、「福島の事故は、お金だけの問題ではありません。福島の人々が家を失い、家業を失い、生活の基盤を失って、人間の尊厳が傷つけられました。日本が今後どういう方向にいくのか、世界中が注目しています。1人1人が責任をもって行動しなければなりません」と講演を締めくくりました。

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