キクログ批判 その2
産業技術総合研究所の講演会
2006.07.06
独立行政法人産業技術総合研究所 中部センターで7月29日(土)に科学教養講座
「家庭生活とニセ科学 マイナスイオンってなーに?」 という講座が開催されるそうだ。
そのいきさつを、企画立案者の柘植氏という分析技術者がキクログの「ニセ科学」シンポジウム(物理学会) のコーナーに投稿している。
119.柘植 May 17, 2006 @ 02:39pm
はじめまして、産総研中部センターに勤務している柘植と申します。1月に新聞報道で物理学会が「ニセ科学」を取り上げるという事を知りまして、お考えに深く感銘を受けました。私自身が感じた事として、「この動きを物理学会のみにとどめるべきではない」「この動きを一過性のものにするべきでない」という思いを強く感じました。そこで、私どもの産総研中部センターが、来る7/29に所内公開という行事を行うのに際して、一般向け科学講演会として「家庭生活とニセ科学 −− えっ、マイナスイオンってニセ科学なの? −−」という講演を提案しました。現在、所内公開実行委員長の判断待ちの状態です。
きくち 03:44pm on 2006-05-17
おお、それはすばらしいです。産総研の一般向け講演会でとりあげられれば画期的だと思います。他の学会にも広まってくれれば、心強いです
121.柘植 May 17, 2006 @ 05:03pm
中部センターというこじんまりした所帯だから、所内公開実行委員会の古株となっている私が、「こういう講演会もやるべきだ」と強く押すとできる可能性が出てくるというのが裏話です。物理学会のシンポジウムが引き起こした波は、こうやって地方の国研(もはや国研でもないのかもしれませんが)の一人の分析技術者にも影響を与えた事を知っていただければと思っています。
130.柘植 June 12, 2006 @ 01:19pm
7/29日の所内公開行事に伴う一般向け教養講座としての「家庭生活とニセ科学−−えっマイナスイオンってニセ科学なの?−−」につきまして、実行委員会から「行事として行う」という決定がでました。 事務方からは「題名の『ニセ』はインパクトが強すぎるのでは?」と多少の難色はあったのですが、「ニセ科学というのは、定義のある用語だ、物理学会のシンポジウムも『ニセ科学とどう向き合うか』でやっている」と押し切りました。
きくち 06:16pm on 2006-06-12
おお、それは正面突破ですね。がんばってください
132.柘植 June 15, 2006 @ 09:03am
その中でも「科学者は用語の定義を大事にする」こととか、「大事にしないと議論できない」という部分などを説明して、科学的定義の無いマイナスイオンというものが「科学的に議論できないもの」であり「議論できないことを悪用されてしまった」という理解を求める形をとってみました。
その後、大手家電メーカーが「流行語」に乗ることの批判も少しして、製造業の中で「技術開発部門の発言権が弱くなっているのでは?」という、私が日頃企業の技術開発の人と接して感じている事なども触れてみました。
135.柘植 June 16, 2006 @ 09:53am
なかなか私の立場というのも難しい面がありまして、一昨日仕事場のちょっとした飲み会で所内公開時の講演の話題が出たのですが、私と同じような「下っ端」は「よくぞ提案した、思いっきりやれぇ〜」なんですが、立場が上になるほど「柘植君、やるべきだと思うし、止めはしないが慎重にな」なんですね。実のところ、私もそう若くは無いので、その立場からの注意も充分に分かるのです。
136.柘植 June 19, 2006 @ 01:00pm
こんにちは。産総研のホームページの中部センターの部分に7/29の所内公開のプログラムが公表されましたので、ご案内します。
http://unit.aist.go.jp/chubu/koukai/18FY.htm
ここまで来ると、もう何が何でも私は話さなくてはなりません。
以上が教養講座開催のいきさつである。
柘植氏がはじめに考えたテーマである 「家庭生活とニセ科学 −− えっ、マイナスイオンってニセ科学なの? −−」が、かなりトーンダウンされて「家庭生活とニセ科学 マイナスイオンってなーに?」となったようだが、「ニセ」という言葉にはこだわったようだ。
どうしても、マイナスイオンはニセ科学だ!と論じたいらしい。
柘植氏は「マイナスイオンには科学的定義が無い」と言う。
そしてそのことが、氏が「マイナスイオンはニセ科学だ」断定する根拠となっているようだ。
しかしその考えは間違いである。
定義というものは自然に存在するものではなく、人が作るものである。だから、「ある」か「ない」かではなく、「定義をしている」か「定義をしていないか」である。それによって「ある」か「ない」かという状態が生まれるわけだ。
ところが私(吉岡)はかねてから「マイナスイオンとは大気電気学で言われるnegative ions の日本的一般名詞だ」、と定義して発表している。だからは定義は「ある」のだ。柘植氏は、それを「ない」と言う。
なぜか。
ひとつの可能性は、柘植氏は私が提起している定義を知らないということだ。あり得ることだ。
もうひとつの可能性は、柘植氏は私の定義を知っていて、しかしその考えに反対だということである。
どちらにしても、柘植氏が講演会を開催して「マイナスイオンはニセ科学だ」と主張しようとするのならば、氏は、「マイナスイオンとは大気電気学で言われるnegative ions の日本的一般名詞だ」という私のシンプルな定義を否定する必要がある。
氏にそのような論理があるだろうか。
あるいは柘植氏は、「誰が」定義したかを問題にしているのかも知れない。
私(吉岡)ではダメだ、ということかも知れない。あり得ることだ。
しかし、大気電気学の先達である小川俊雄高知大学名誉教授は、「マイナスイオン 健康効果の原理」 という自著に Negative ions, Theory of Health Effectsという英語訳をつけている。(右図)
つまり negative ions を研究してきた人々にとっては、一般の人がそれをマイナスイオンと呼ぶなら、まぁ、それでもいいか、ということなのだ。
柘植氏はそれをも否定するつもりのようだ。
では、誰が定義をしたら柘植氏は認めるのだろうか。
権威ある学会が正式にマイナスイオンという言葉を定義すれば認めるのだろうか。
検定教科書に書かれればいいのだろうか。
あるいは発想を逆にして、マイナスイオンという言葉を使っている人が、みんな、それを negative ions と言い換えてしまったら、柘植氏は、それなら認めよう、と言うのだろうか。
柘植氏のそのような考え方は、科学的というより、社会的、政治的なものである。
また、所内で問われて柘植氏は「ニセ科学には定義がある」と答えているのだが、その定義は阪大教授の菊池氏がひとりで勝手に書いたものでしかない。それも、菊池氏自身が、「よくわからないけど、ニセ科学だ」などと呆れた無責任な発言をしている程度の、いい加減なものである。
柘植氏はそれが、先般の物理学会で取り上げられたから、「ニセ科学」というものが日本の物理学界全体の共通認識となっていて、社会的にも認知済みだと判断したようだが、そうとは限らない。
だから、柘植氏の上司や事務局が心配するのは、むしろ当然なのだ。
柘植氏はまた、大手家電の便乗商法に憤慨しているようで、どうやらそれは「マイナスイオンはニセ科学だ」と言う人々に共通する思いのようなのだが、しかしそれは、そんなに目くじらを立てることではなかろう。
世に薬事法という法がある。健康や病気に効果があるかどうかは、厳密な試験をして認可されなければ、広告してはいけないことになっている。一部の人々がその禁を犯して、科学的に立証されていないうちに、マイナスイオンに健康面での効果があるように言い出した。そしてそれが新聞や週刊誌に取り上げられブームが起こった。
大手家電はそのブームに乗った。乗らざるを得ないという自由競争経済の構造もある。「それは科学的に立証されていない、だから我が社はマイナスイオン空調機は作らない」などとすまし顔でいられる会社は、ごく少数である。
しかし大手家電は、明らかに健康に害があるようなものは出さなかったはずだし、薬事法があるから、あからさまに健康にいいとも言わなかったはずだ(いちいち調べたわけではないが、それが常識だろう)。「マイナスイオンが出ます」「空気がさわやかになります」「ダニが減ったという実験もあります(実際にそういう結果だったと思われる)」・・・・とは言うが、薬事法に触れるような表現はしない。大手家電の各社には広報や法務の専門職がいるのだから当たり前だ。
だから外国通信社に問われて、大手家電は、「健康にいいと言ったことはない」と回答する。
実際に、「言ったことはない」というのが事実なのである。このような大手家電の営業戦略は、「行儀が悪い」と言えば、その通りだ。しかし世の中はそんなものであって、そんなことに科学者がいちいち目くじらを立てる必要はない。
要するにこんなものは、ファッション、流行なのである。今年はどんな水着が流行るか、流行る水着は高く売れるのである。マイナスイオンが出るエアコンは、少し高く売れ、逆にそれがついていないエアコンはさっぱり売れない。それは消費者が選択した結果でもある。その結果、何が起こったかというと、別に何も起こっていないし、どこにも被害者などいない。石油ファンヒーターのようにそれで人が死んだわけでもない。そもそも、「そんなもの効くのか?」という程度の物だから、毒になどならないのである。
消費者は、どうせ買い換えるならマイナスイオンが出る空調機を買って、部屋がさわやかになったようだ(機種によってそれは事実でもある)と満足するのである。今年は赤い水着を買ったのよ、と満足し自慢するのと同じことだ。
大手家電のこのような営業活動を批判するのはよいとしても、それは「ニセ科学」という言葉で批判されるような事柄ではなかろう。
また、産業総合研究所という、産業界をバックに存在している国の研究所が、大手家電を正面から批判するような公開講座を開くことは、勧進元の菊池氏が「おお、それは正面突破ですね」と驚いているように、一般から見て、かなり「びっくり」なことである。
産総研は所内で再検討したほうがよいのではないか。