中国新聞 12月3日
原子力協定承認へ 事故の検証こそ先では
この矛盾をどう理解すればいいのだろう。原発輸出を可能にするヨルダン、ベトナム、韓国、ロシアとの原子力協定の締結が、今国会で承認される見通しとなった。
福島の原発事故で停滞していた原発輸出の動きが加速する。「脱原発依存」を掲げたはずの野田佳彦首相が、原発や関連技術の売り込みに率先して旗振り役を果たしている格好だ。
首相は「事故の経験や教訓、知見を国際社会と共有するのはわれわれの責務だ」と強調する。
だが事故は収束せず、検証も済んでいない。エネルギー基本計画の見直しも道半ばだ。拙速な輸出は国民の不信を増幅させるばかりか、各国の信頼も得られまい。
なぜ政府は急ぐのか。年内に発注先を決めたいヨルダン政府から手続きを急ぐよう強く迫られたことが理由の一つのようだ。
ヨルダンでは三菱重工業とフランス・アレバ社の企業連合が、ロシアやカナダ勢と受注競争でしのぎを削る。協定の締結が遅れることにより受注を逃すリスクを政府は恐れているのだろう。
福島の事故後、海外市場へとシフトする国内の原発関連メーカーへの配慮とも受け取れる。
だがヨルダンは地震多発国だ。建設予定地は内陸の乾燥地にあり、冷却水の確保が困難といわれてきた。解決できるのだろうか。
経済成長に伴い電力需要が増えているベトナムは、原発2基分を日本に発注する方針を固めている。だが予定地が国立公園に隣接していることや、事故のリスクについて住民への周知が不十分などの問題点も指摘されている。
国際環境団体が「拙速な協定の締結は無謀な原発輸出を促す」と反対するのも無理はない。
衆院外務委員会はきのう、民主、自民両党の賛成で協定の承認案を可決した。直ちに本会議で採決の予定だったが、反対に回った公明党に自民党が配慮し、先送りを求めた。
この際、国会は慎重に議論を重ねるとともに、政府は国民が納得できるよう説明を尽くすべきだ。
政府は、核保有国であるインドとも原子力協定交渉の進展で合意している。だが原発技術は軍事転用されるリスクがある。核拡散防止条約(NPT)への加盟が大前提だと強く求めることは、被爆国の責任でもある。
民主党政権は福島の事故に至るまで、「原発ビジネス」を成長戦略の柱に位置づけていた。
とはいえ輸出にはやる前に、やるべきことがある。まずは徹底的に事故を検証し、万全の再発防止策を講じていくことが、当事国としての責務にほかなるまい。
成長戦略というなら再生可能エネルギーも本命になりうる。政府はもっと積極的に民間の技術開発を後押ししてはどうだろう。
首相は就任直後こそ「脱原発依存」と口にしたが、最近は聞こえてこない。原発に対する姿勢がぶれてはいないか。いま一度、確かな言葉を聞かせてもらいたい。
中日新聞
原発政策 国内外で使い分けるな
12月3日
衆院外務委員会が原発輸出に道を開くヨルダンなど四カ国との原子力協定案を可決した。今国会で承認される見通しだが、福島の検証も終わらぬうちに輸出では国際社会への説得力に欠ける。
東京電力福島第一原発が今なお冷温停止に至っていないにもかかわらず、野田政権は原発輸出にこだわっている。協定締結の相手国はヨルダン、ベトナム、ロシア、韓国で、核物質を輸出入する際、軍事転用を防ぐことが目的だ。衆院での質疑は国の内と外で原発政策を巧みに使い分ける姿を鮮明に映し出した。
野田佳彦首相は「福島の教訓や知見を国際社会で共有することが日本の責務」と語り、「事故後も日本の原発を求めてくる国があり、ならば最高水準の技術で協力していく」と力説した。
一方で玄葉光一郎外相は「日本は原発を新増設する状況になく、政府内で段階的な依存度引き下げを共有している」と述べている。国内の新増設には腰を引き、海外には売り込む。こうも国の内外で落差があっては、国際社会から信頼を得られるか疑わしい。
特にヨルダンは日本と同じ地震国で、原発に不可欠な冷却水の確保が難しい内陸部の乾燥地帯が予定地だ。八月の通常国会で参考人から指摘され、継続審議になったのに、政府は原発の専門家を派遣しての調査もしていない。
立地場所の周辺は、首都アンマンなどの大都市やヨルダンの半数の工場が集中しており、立地の適否すら確かめずに協定を優先させては怠慢のそしりを免れない。
輸出相手国の多くは新興国で、原発の資機材だけでなく運転・保守管理も日本に求めているが、事故が起きた際の責任の所在は明確になっていない。そのリスクを回避する「原子力損害の補完的補償に関する条約」への加盟も、福島後に慌てて検討するお粗末さだ。
原発は一基五千億〜六千億円の大型商談で、人口減少で需要が縮む日本に代わって外需を取り込む新成長戦略の一環でもある。
原発メーカーの東芝、日立製作所、三菱重工業はリトアニアやトルコなどとも受注交渉を進め、政府も協定を結べば原子力ビジネスの海外展開が可能になるとの見解を示している。
日本経済の再生に輸出拡大は有効な手だてだが、首相は福島の事故の検証が道半ばなのに教訓をどう生かすというのか。安全確保があいまいでは、立ち止まることも選択肢の一つに加えるべきだ。
愛媛新聞
原子力協定承認へ 福島事故の教訓を忘れたのか
東京電力福島第1原発事故が収束しない中、政府は再び原発輸出への一歩を踏み出した。事故の反省と教訓を置き去りにしたままの姿勢が許されるはずもなく、強い疑問と憤りを禁じ得ない。
ヨルダンやベトナムなど4カ国への原発技術移転などを可能にする原子力協定締結の承認案が、衆院外務委員会で可決された。今国会中に衆参両院で採決され、4協定が承認されることになる。
またしても野田佳彦首相の独善的な見切り発車に、与野党そろって追随した格好だ。国際社会の未来さえ左右しかねない重要な協定だけに、まずは政策決定機関として委員会の見識を問いたい。
日本の原発技術への信頼は地に落ち、エネルギー政策の見通しも不透明だ。そういう時期に、品質保証のない商品を売りつけるような政策が理解されようか。
「協力に意義がある。これまでの外交交渉、信頼関係をふまえた」という野田首相の姿勢は偏重している。求められるままに協力する姿勢は、理念なき外交そのものだ。
協定の締結は、無期限に先送りすべきである。
日本に求められているのは事故の原因とその教訓を、余すことなく国際社会に情報提供することだ。その上で「日本の技術」は輸出に値しないと率直に自重するのが、先進国としての責務だ。
今回の協定相手国は、ほかにロシアと韓国。確かに各国とも、日本の原発技術への期待感は強い。特に原発建設計画の発注先決定を年内に控えるヨルダンは、日本側に承認を強く求めているとされる。
しかし各国とも、日本の原発事故の重大性を認識しないまま、技術や資材の提供のみを求めているのが現実だ。
たとえば、原子力協定締結交渉がまもなく再開されるインドは、原発推進に極めて積極的だ。先日の視察では、原子力公社の技術担当副総裁が「事故を教訓に安全な原発を推進したい。事故を起こした原発より無事だった原発に学ぶべきだ」と述べた。
事故を、むしろ原発推進への契機であるととらえているのが実情といえる。
インドだけではあるまい。この現実は、日本が、原発事故の深刻さを国際社会に正確に伝えていないということの裏返しでもある。
事故把握と対応の甘さ、情報公開の不備、自省の欠如。日本は事故後、いくつもの失態を重ねてきた。その上、原子力協定を結ぶことでさらに恥の上塗りをする愚かさを、重ねて指摘したい。
政府がいま行うべきは、原発先進国の認識を捨て去り、技術と資材の利用を凍結することだ。原発依存から脱却する勇気を持たずして、日本の再興も信頼回復もない。
北海道新聞
原子力協定 原発輸出は再考が必要
(12月5日)
日本の原発輸出を可能にする4カ国との原子力協定の締結承認案が今国会で審議されている。国会承認が得られれば来年1月にも発効、原発輸出が動きだす。
東京電力福島第1原発の事故はなお収束していない。政府の事故調査・検証委員会の中間報告など、足元の原因究明もこれからだ。そんな中で官民で原発輸出を進めようとする政府の姿勢には大いに疑問が残る。
4カ国はヨルダンやベトナム、ロシア、韓国である。
このうちベトナムとは10月末の野田佳彦、グエン・タン・ズン両首相の会談で、日本が原発建設に協力することで合意した。ヨルダンも年内に原発の発注先を決める予定で、日本側に早期承認を求めている。
これに対し市民団体からはヨルダンやベトナム両国では放射性廃棄物処理の見通しが立っておらず、事故対策も不明との指摘が出ている。
ことにヨルダンの原発建設予定地は乾燥地帯の内陸部にあり、緊急時の原子炉冷却水を十分に確保できるか懸念されるという。
専門家は官民一体の原発輸出のため、輸出先で事故が起きた場合、賠償責任が国民負担に結びつく可能性もあるとしている。原発管理の責任を長期間、背負う恐れもある。
事故当事国として、原発輸出を根本から問い直す慎重さが必要だ。
野田政権が前のめりになるのは、原発や新幹線などインフラ輸出を成長戦略の柱と位置付けているためだろう。原発は1基5千億円のビッグビジネスといわれ、政府はインドなどへの輸出も検討している。
ただ首相は中長期的には脱原発依存の方針を明言し、「国内での新増設はできない」とも述べてきた。
原発への不信感が募る国内では新設見送りを掲げる一方、海外には積極的に売り込み、経済成長のけん引役としての役割を期待する。これでは国民の理解は得られまい。
首相は9月の国連演説で「世界最高水準の安全性の確保」を原発輸出の前提にする考えを表明した。
しかし事故の真相究明は済んでおらず、原発の安全基準も見直しの真っ最中だ。最高水準の安全性が確保されたとは言えないだろう。
大事故がなかったかのように原発輸出に向かう政府の姿勢を見ていると、エネルギー政策を大胆に改革する覚悟があるのか疑わしい。
日本が原発輸出を進めるもととなっている政府の新成長戦略の見直しも欠かせない。
福島の事故を教訓に、脱原発に向けたエネルギー戦略をきちんと策定する。そのうえで太陽光や風力など自然エネルギーの普及を含めた新たな成長戦略を内外に示すべきだ。
信濃毎日新聞
原子力協定 事故の教訓はどこへ 12月05日(月)
原発輸出を可能にする4カ国との原子力協定締結がいまの国会で承認される見通しである。民主、自民両党が今週中に採決することを確認した。
原子力協定は原子力の関連技術や機材、核物質の輸出に際して、利用を平和目的に限るため、2国間で結ぶ条約である。これまで米国、フランス、中国、カザフスタンなど7カ国、1機関と締結している。今度はヨルダン、ベトナム、韓国、ロシアが対象だ。
4カ国との協定は福島第1原発事故が起きたため、日本側の手続きが先送りされていた。
事故前に政府間の署名が済んでいたとはいえ、すぐに発効させるのは問題だ。原発事故が収束せず、本格的な原因究明はこれから。ほかの原発も安全性が問われている段階である。政府は事故の重大性をどう考えているのか。
国内で「脱原発依存」を掲げる一方で、国外では原発ビジネスを積極的に進めるという、使い分けの方針そのものに無理がある。
野田佳彦首相は国会審議で「事故の経験や教訓、知見を国際社会と共有するのが責務だ」とし、いま承認を求める理由を「これまでの外交交渉、信頼関係を踏まえた」と述べている。
成長戦略の柱と位置付ける原発の輸出促進策を変えず、さらに加速させようとの意図は明らかだ。
日本の原子力産業はトップ水準の技術力を持つ。圧力容器用鋼板のように日本製が欠かせない機材もある。けれども国内では減らすと言いながら、海外には万全だと言っても、信用されないだろう。
米国では1979年の原発事故後、凍結してきた新規着工が決まり、日本からも機材が輸出される。ドイツ、スイスなど一部の先進国は脱原発に方向転換したが、新興国は導入に積極的だ。
こうした環境で政府が使い分けの姿勢を続けることは、国内の原発の新設・増設につなげる伏線だと受け取られても仕方がない。国民も事故の痛みを忘れず、忍耐強く監視していくことが必要だ。
4カ国との協定では、ヨルダンとベトナムに本体を、韓国に圧力容器など機材を輸出する方向という。ロシアには使用済み核燃料の再処理を委託する。
ヨルダンは地震国であり、冷却水の確保など立地を問題視する意見もある。保守管理を求められても安全を保証できるか疑問だ。
事故の経験を生かすなら、とりわけ本体輸出に関しては、いまの段階では慎重であるべきだ。協定の発効は時期尚早である。
毎日新聞12月10日社説
原子力協定承認 拙速にすぎはしないか
政府がヨルダン、ベトナム、ロシア、韓国と結んだ原子力協定が、国会で承認された。これにより、協定は来年1月にも発効し、原発輸出が可能になる。
しかし、東京電力福島第1原発の事故はまだ収束していない。原因の究明、検証もこれからだ。安全確保をめぐる十分な議論がないままでの国会承認は、あまりに拙速だといわざるを得ない。
原子力協定は、原子力関連技術や資材を輸出する際、相手国での軍事転用を防ぐために締結するもので、原発輸出の前提になる。日本は米、仏、中国、欧州原子力共同体など7カ国1機関と締結済みだ。
今回承認を得たヨルダンとベトナムには原発輸出、ロシアにはウラン濃縮の委託、韓国には原子炉部品の輸出を想定している。
国会審議で、野田佳彦首相は「日本の現状や反省も踏まえ、なお協力してほしいというなら、できることをすることは国際的な原子力安全の向上に資する」と説明した。
しかし、「安全の向上」と胸を張る根拠はあるのか。確かに、国内原発産業の技術力は高い。しかし、それだけで原発を稼働し、運営する際の安全が確保できるわけではない。
輸出先で運営を主導すると期待された東電の参画は望めない。また、事故の原因がはっきりしないままでは、安全性を訴えても説得力はあるまい。
一方で首相は、「事故の経験や教訓を国際社会と共有するのはわれわれの責務だ」とも強調した。もっともだが、共有すべきは、事故の徹底的な検証を前提にした事故防止のための知見であるはずだ。
今回の国会審議は、議案の審議入りから承認までわずか10日しかなかった。例えば、ヨルダンは地震多発国であり、原発建設予定地が内陸部にあるため大量の冷却水を確保しにくいとされるが、安全対策の議論は生煮えだった。
政府は、締結相手国での受注競争で日本企業が不利にならないよう、年内承認を急いだとの指摘もある。しかし、採決では与党内からも反対者が出た。「身内」も納得しない審議では、国民や国際社会の理解も得られまい。
政府は現在、インド、南アフリカ、トルコとも原子力協定の締結交渉を進めている。核保有国でありながら核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドとの交渉は、とりわけ慎重であるべきだ。
国内で「脱原発依存」を進める一方で、海外に危険や不安を輸出することがあってはならない。
そのために、政府・国会には事故の検証を踏まえ、安全をめぐる議論を深めるよう改めて求める。
神戸新聞12月6日 社説
原子力協定/国民の理解が得られるか
ヨルダンやベトナムなど4カ国との原子力協定締結の承認案が、衆院外務委員会で可決された。今国会中に承認される見通しだ。
原子力協定は、平和利用を前提に技術や機材、核物質の移転について2国間で定めるルールである。締結先へ原発を輸出するための条件を整えるものであり、日本はすでに英米仏や中国など8カ国・機関と締結している。
東日本大震災による福島第1原発事故を受け、日本は原子力にエネルギーを依存する構造からの脱却を国際社会にも約束した。その目標に向かって官民が総力を挙げるべきときに、原発ビジネス再開を意味する協定締結を承認するのは、矛盾した行動というしかない。
その点を踏まえて、拙速な国会審議は避けなければならない。
ヨルダンと日本は昨年9月、政府間で原子力協定締結に合意していたが、3月の震災発生に伴い、与党内では国会承認に慎重な意見が強まっていた。
そうした中、ヨルダン政府の高官が協定締結を年内に承認するよう日本政府に強く働き掛けてきた。
同国の原発建設では日本やロシア、カナダなどの企業が受注を競っている。ヨルダンの政府高官が協定締結を求めたのは、日本企業への発注を望んでいるためとみられる。
しかし建設予定地は、非常時に大量の冷却水を確保しにくい内陸の乾燥地である。大都市に近く、事故が起きたときの避難対策でも大きなリスクがある。
原発は使用済み燃料の処分問題などを抱えている。安全確保の難しさも、今回の事故であらためて示された。
発生から9カ月近くが過ぎても収束しておらず、周辺住民の多くが仮住まいを強いられている。原因究明も、緒についたばかりだ。ビジネスを優先して他国の原発を建設することに、国民の理解が得られるとは思えない。
野田佳彦首相は衆院外務委員会で協定締結について「原発事故の経験や教訓を国際社会と共有するのが日本の責務」と強調した。教訓とすべきはまず事故の深刻さである。その原因究明に努め、検証過程も含めて国際的に伝えていかねばならない。
日本はインドやトルコなどとも協定締結交渉に入っているが、時期尚早というしかない。
脱原発依存を掲げながら、なぜ原子力協定締結を急ぐのか。野田首相は国民にきちんと説明する必要がある。