興味深い仮説 脳の中の水分子
 
 2006.10.16

非常におもしろい本を読んだ。
中田 力 新潟大学教授 著 紀伊國屋書店 「脳の中の水分子」である。

中田力 1950年生まれ。東大医学部を卒業。カリフォルニア大学、スタンフォード大学で臨床研修を受け、カリフォルニア大学脳神経学教授に就任。1996年にファンクショナルMRIの世界的権威として日本に戻り、文部省学術審議会により中枢的研究拠点(COE)
のプロジェクトリーダーに選ばれる。新潟大学統合脳機能研究センターを設立。その長として活躍する一方で、日米を往復して臨床医・脳科学研究者としても忙しい日々を送る。
2005年より日本学術会議により「日本が積極的に推進すべき科学プロジェクト」という評価を受け、「水分子の脳科学」を遂行中。ノーベル賞に最も近い研究者のひとりとして注目を集めている。著書に「脳の方程式 いち・たす・いち」「脳の方程式 ぷらす・あるふぁ」「アメリカ臨床医物語」(ともに紀伊國屋書店)などがある。(本書より)



さて、物語はライナス・ポーリング博士が1950年代に発表した hydrate-microcrystal idea (水和性微細クリスタル説)から始まる。これは、全身麻酔はどのような機序で効くか、という仮説である。局部麻酔は神経の経路を遮断することで実現される。全身麻酔は脳の意識がなくなることで実現される。この2つはまったく違うものであり、全身麻酔がどのように効くかを説明する理論は正式にはいまだにない。辛うじて、今から40年以上も前に、ノーベル賞を2度受賞したことで知られるライナス・ポーリング博士が唱えた、上記の仮説、結局は学会から無視されてしまった仮説があるのみであった。
ポーリング博士は、キセノンを含むすべての麻酔薬が水のクラスター形成を安定化し、小さな結晶水和物を作り出すと唱えた。脳の中の水分子と水分子がくっつきやすくなることが全身麻酔の分子機序であることを発見したのである。

しかしその仮説は、当時の脳科学者に理解されぬまま、異端の説として葬り去られた。中田氏は23才のとき、図書館の奥に眠るポーリング博士のその論文に接して衝撃を受け、その仮説を完成させることを天命としたのだった。

中田氏はその後、ポーリング博士の仮説を立証すべく、日本では受け入れられずにアメリカに渡り、物理学から学びなおして研究を続けた。そして一方でファンクショナルMRIの世界的権威となり臨床医として活躍しながら、仮説を成熟させていったのだが、失われたリンクは1992年にやってきた。
それは水チャンネル(アクアポリン)の発見である。水の移動を積極的に行うタンパク質構造の存在は、またたく間に医学界の常識となった。そして中田氏が追い求めた結果、脳の中にもアクアポリンが存在していたのである。

しかし、中田氏の論文を掲載してくれる学術誌はなかった。
査読者の批評は罵声に近いものだった、と中田氏は述懐する。


詳しい内容は本書を読んでいただくしかないが、たいへんエキサイティングな内容で、一気に読んだ。

科学者とはこうあらねばならないと思う。

根底に「愛」の心がなければならない。それが情熱となり探求心となり持続力となって、やがて結実してゆくのだ。単に好奇心だけあれば科学は足りる、などと言っているようではろくな研究はできない。

まぁ、比べるのもどうかとは思うが、こういう話を見聞きするたびに、インターネットでさかんにニセ科学批判をしている自称「科学者」たちの、精神の頽廃ぶりを思わざるを得ない。彼らの状況を表すのには、まさに「小人閑居して不善をなす」という言葉がふさわしい。

私は、マイナスイオン水を扱っている。彼らはそれを真っ向から「ニセ科学」と罵倒する。見ようともせず、聞こうともせずにだ。そして大阪大学だ、お茶の水女子大学だ、おれたちは科学者だ、という権威をカサに罵倒するのである。
だから私は、私たちの名誉のためにも実業のためにも、私たちがやっていることが決してニセ科学などではなく、人をだますものでもないことを主張し続けなければならない。

しかし学問の世界では、ポーリング博士も受け入れられず、中田氏のような優秀な研究者も罵倒されているのだから、このくらいはまぁ仕方ないかという気もしてきた。そういう意味でも本書は私にとって意義のある本である。

ひとつだけエピソードを紹介しよう。

4年前に私は、ニセ科学批判者の頭目のひとりである安井至東大教授(当時)と議論したことがある。その中で私は、血液中のヘモグロビンが磁化していることを示唆した。すると安井氏は「ヘモグロビンが磁化しているなど、いったいどこに書いてあるんだ」と居丈高に質問してきたものである(もっとも代理を立ててきたのだが)。
ところが、この本の著者の中田力氏が権威のひとりである、ファンクショナルMRIというものは、脳の中ヘモグロビンの磁気を検出することで、脳のファンクション、すなわちいま脳がどう働いているかをリアルタイムで見ようという装置であり技術なのである。
ヘモグロビンには鉄があり、地上のすべての鉄は地磁気で磁化するのである。だからヘモグロビンが磁化しているのは、当たり前といえば当たり前のことである。

要するに「ニセ科学批判者」たちは、ろくにものを知らずに、ベラベラとしゃべっているだけなのである。なぜそうなるかというと、ニセ科学批判は相手がゲリラみたいなものだから、必然的に多岐にわたってしまうので、彼らは専門性を維持し得ない、つまり専門外の分野に知ったかぶりで首をつっこまざるをえないからでる。それは最近のキクログでも如実にあらわれているが、それはまた別稿にゆずろう。
そしてこのエピソードには落ちがある。「ヘモグロビン、磁気」のキーワードで検索すると、ファンクショナルMRIに関するページが次々に出てくる中で、安井至氏の「ヘモグロビンが磁化しているなど、どこに書いてあるんだ!」というページも出てくるのである。


さて、過日東京に滞在していたとき、読売新聞の書籍広告「脳の中の水分子」が目に飛び込んできて、すぐに紀伊國屋書店に行って本書を買い求めたのだが、この言葉が目に飛び込んでくるには理由があって、私は脳と水との関係をずっと考えていたのである。

それは、私たちのマイナスイオン水を、常飲する動物たちの脳の活動と、そうでない動物たちとの脳の活動との間に、際だって差が出てくることである。にわとりも犬も猫も牛も馬も、感情が落ち着いてきて、むやみに騒がなくなる。それが、よいタマゴやよい肉やよいミルクとなる。人間も同じことなのだが、今はそれには触れない。

その中でも、もっとも興味深いのは伝書鳩の話だ。
伝書鳩愛好家の間ではレースが行われている。100キロから1200キロ離れたところで鳩を放ち、鳩に時計をつけて帰巣するまでの時間を競うレースだ。ある愛好家の家にマイナスイオン水生成器が取り付けられ、鳩の飲用水もエサの調合もこの水が使われるようになった。その愛好家はすぐに、鳩が落ち着いてきたこと、体調がよくなってきたことなどを実感した。そしてその後の大きなレースで今までになかった好成績が出るようになった、という話である。遠くからでも帰れるようになったし、今までバラバラに帰ってきたのが、みんながまとまって帰って来るようになったし、早くなったし、疲れた様子も見せないというのである。

鳩がみんな、以前より体力をつけてきたということはもちろんあるのだが、帰巣行動は方向が定まらなければならず、方向を定めるのは脳しかない。
鳩は放たれると、しばらくその場で上空を回って帰巣の方向を探すのだそうだ。賢い鳩は一回まわったくらいで素早く方向を見定めて、あとは一直線に巣を目指すそうである。


中田氏が解明しつつあるように、意識の形成に水分子が関与しているなら、その水がほんお少しでも変われば、意識のあり方も少し変わるだろう。

いつか、私たちの体験談を中田氏に披露したいものである。何か新しいことが始まるかも知れない。




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